2014年夏学期 テーマ講義:東京大学教養学部

下條信輔(5月20日)

下條信輔
Shinsuke Shimojoh

カリフォルニア工科大学 生物学部/計算神経系 教授

1978年
東京大学文学部心理学科卒業。1985年 マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院修了、Ph.D.

1986年
東京大学人文科学科大学院博士課程修了

1985年
日本学術振興会特別研究員(名古屋大学眼科)

1986年
スミス・ケトルウェル視覚科学研究所研究員

1989年
東京大学総合文化研究科助教授

1997年
カリフォルニア工科大学生物学部/計算神経系 准教授

1998年
同 教授(現職)

2004–2010年 
科学技術振興機構 ERATO 下條潜在脳機能プロジェクト リーダー

 

専門は知覚心理学、視覚科学、認知神経科学。現在は特に、情動と意思決定、感覚間統合と脳の可塑性などに関心を持つ。
1999年 サントリー学芸賞、 2004年 日本神経科学会時実記念賞、 2008年 日本認知科学会独創賞、2009年 中山賞大賞受賞。
著書に『サブリミナル・マインド』(中公新書)、『<意識>とは何だろうか』(講談社新書)他。
朝日新聞社「WEBRONZA」(ウェブロンザ)の(科学・環境欄)レギュラー執筆者。

講演要旨

・はじめに
 今回の講演者は、東京大学の卒業生であり、現在はカルフォルニア工科大学で教鞭をとっていらっしゃる、認知神経学者の下條信輔先生でした。本講演において下條先生は「はじめに夢が無ければ、科学・技術は存在しえない」という話を中心に、ご自身の研究生活の紹介や「個人の夢も、明確な形がなければ実現しない」というメッセージを送ってくださいました。「先人のいうことには耳を貸すな、特に経験談には注意しろ」というお考えから、人生について教え諭す教訓のような方法ではなく、あくまで先生ご自身のご経験や感情をお話してくださいました。
・夢が科学技術の最前線を押し上げる
 「鳥のように空を飛びたい」という夢があったからこそ飛行機が発明されたように、現存する技術はすべて人間の夢があったからこそ生み出されたものである、と先生はおっしゃいます。これは、医療や先端科学においても同様であり、「癌を直したい」という夢があったからこそ癌治療が開発され、「宇宙に行きたい」という夢があったからこそ宇宙探索がされるようになった、ともおっしゃいます。下條先生の認知科学研究もまた、ご自身が幼い頃の「瞬間移動ができるようになりたい」という夢が元となっているそうです。
・研究生活の軌跡
 下條先生は幼い頃から、人がどのように認知するか、ご興味をお持ちでした。しかし、東京大学入学した時点で具体的な目標があったのではなく、偶然先生同士の「さかさ眼鏡」についての立ち話を耳にしたことがきっかけとなり、認知科学の道を進むことになりました。卒業論文ではご自身で2週間、その「さかさ眼鏡」をつける研究を行いました。その後アメリカに渡り、マサチューセッツ工科大学でPh.D.を取得されます。東京大学で教鞭をとられた時期もあり、現在はカルフォルニア工科大学のご所属です。
 研究内容は、「人が考えていることが脳の活動から分かるか」「人の好き・嫌いの判断はどのようになされるか」などであり、体を動かすことが難しい患者さんが脳の働きだけでロボットを動かす技術などに応用されています。
・学生へ向けたメッセージ
 人生は2度繰り返すことができないため、先達のいうことのほとんどは「後付け」と「誤認」である、とご指摘なさいます。そのため「経験談」を押し付けることを避けていらっしゃったようです。今までさまざまな学生たちをご覧になり、感じたことをいくつかご紹介くださいました。そのひとつは、この授業の題である「グローバル化」についてでした。“日本は狭いが世界は広い。世界を感じてみるのも大事なことである。しかし、海外雄飛型とドメスティック型が存在し、それは向き不向きの問題である。ドメスティック型だからグローバル化を考慮しなくてよい、ということでは決してない。グローバル化の波は否応なく日本に襲いかかり、そのときにインパクトを受けるのは、他ならないドメスティック型の人々だ。その中で英語でのコミュニケーションは価値問題ではなく事実問題である。”と警鐘を鳴らされます。
 また、「夢を実現するためにはどうすればいいか」という悩みを抱えた学生とも多く関わっていらっしゃったそうです。“夢は1人1人違うが、いくつか共通してやらなければならないこともある。それは、常に自分の興味・関心のあることについてアンテナを張っていること、何かに強烈に反発してみること、そして悩むだけではなく実際にいろいろとやってみることだ。また、人には性格的な向き、不向きも存在するため、「自分が自分のコーチになれるかどうか」も重要である。”とアドバイスをくださいました。
・質疑応答
Q.先生の研究は、治療や補助など様々な「人のためになる」ものだと感じます。その「人のために何かをしたい」ということ自体は、自分の「夢」になりえるのでしょうか。
A.個人によると思いますが、「人のために何かをしたい」という気持ちが実体験に基づく強烈なものでない限り、途中で挫折する可能性が高いと思います。「人のために何かをしたい」という人は、学問を選択するときに「人のためになりそうなもの」を選びますが、どのような学問もすぐに「人のためになる」と実感ものではありません。そのため、「この学問を学べば誰かを救える」という大きな期待を持っている場合は、理想と現実の間で苦しむことになる場合が多いのです。
Q.理系でも文系でもある学問分野を研究していらっしゃっていると感じました。先生は文学部出身ということですが、数学などのスキルで困ることは無いのでしょうか。
A.「理系」「文系」という区切りは、日本の受験システムの中で生まれたものです。重要なのは、その人が今どのような能力を持っているかです。

(担当:文科二類1年 鵜澤和志) 

講義の様子

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「夢がなければ、そこから先はサイエンスもテクノロジーも進まない」と熱く語られていました。

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広い世界で自分のフォームを探すことの重要性を、真摯に語る先生。