2014年夏学期 テーマ講義:東京大学教養学部

瀬谷ルミ子(4月8日)

瀬谷ルミ子
Rumiko Seya

認定NPO法人 日本紛争予防センター(JCCP)
事務局長/理事

<プロフィール>

1977年2月23日生まれ

1999年
中央大学総合政策学部卒

2000年
第二回秋野豊賞受賞

2001年
英ブラッドフォード大学紛争解決学修士号取得
その後国連PKO、外務省、NGO職員、ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネ、コートジボワール等で勤務

2007年より現職

2011年
ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人25人」に選出
日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2012準大賞受賞

2012年
週刊雑誌AERA「日本を立て直す100人」に選出
日経ビジネス「未来を創る100人」に選出

2013年
エイボン女性年度賞大賞受賞

現在は、JCCP事務局長として、南スーダン、ソマリア、ケニアなどの紛争地に展開する現地事務所と現場での平和構築事業を統括している。紛争地の住民・組織の能力強化を通じ、「被害者」を「問題解決の担い手」とすることで、治安の改善、社会的自立、和解の促進を実践している。
専門は紛争後の復興、平和構築、治安改善(SSR)、兵士の武装解除・動員解除・社会再統合(DDR)など。アフリカのPKOの軍人、警察、文民の訓練カリキュラム立案や講師も務める。

2009年NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」出演。
著書:『職業は武装解除』朝日新聞出版(2011年9月20日出版)。

講演要旨

瀬谷ルミ子さんは紛争地域の「武装解除」を専門として、若くしてグローバルに活躍されている。講演では、武装解除の現場のお話や、紛争地域の実情、そして瀬谷さんご自身の歩みについてお話しされた。そのなかでいくつも心に響く言葉があった。
「武装解除」とは単に「紛争」地域から武器を取り払い処理することではない。武器を回収した後の、生活の再建やコミュニティの再生こそが重要なミッションとなる。瀬谷さんが事務局長を務める日本紛争予防センター(JCCP)はとくに、紛争地での人材育成・能力強化を通じて、治安の改善、社会的自立、和解と共存を現地社会が維持できるように支援することを活動としている。人材育成とは、具体的には職業訓練や啓発、教育のことだ。紛争地では「戦争」が人々の生業となっていることがある。現地社会の平和を維持するためには、「兵士」が、戦争が終結した後に自立できるように支援しなければならない。子供の「兵士」には可能性を授けるために教育の機会を与える必要がある。瀬谷さんは「『平和』は生きる選択肢、生き方の選択肢がある状態」だと言う。この活動はまさに、紛争地域を「平和」にする活動だと言える。
また、瀬谷さんは「二人の人間が対立すれば『紛争』は生じる。」と言う。「紛争」は「戦争」や「(戦時下の)暴力」だけを指しているのではなく、日常生活でも「紛争」は起こりうる。紛争地域の支援での難しさとして被害者への配慮があげられた。加害者である兵士ばかりが就職支援などを受けていては、被害者は報われない。被害者にも十分な支援を行わなければならない。またコミュニティを再生するためには加害者・被害者という対立構造をも取払い、和解と共存を実現しなければならない。とても難しいことではあるが、復興プログラムに積極的に主体となって参加してもらうことで両者のわだかまりは次第に解けていくそうだ。つまり、心も「武装解除」することで、現地社会を本当の意味で「紛争」のない地域にする。これこそが瀬谷さんの活動なのだ。
瀬谷さんご自身のお話では、世の中に不満を感じていた高校生時代を振り返り、「外野で野次を飛ばしていた」状態だったと表現した。ルワンダの難民キャンプの親子を写した一枚の写真をきっかけにそんな自分に気づき、何か自分にしかできないことを考えた結果、「武装解除」の専門家を意識したそうだ。大学生になってからはさらに自覚的になり、インターンなどを利用し、日本でできる実務経験を積めるだけ積んだと言う。そうした経験が認められ、若くして国連ボランティアに任命されて数々の紛争地へ赴くことになった。
グローバルに活躍するうえで、重要なことに「国」という意識がある。瀬谷さんはアフガニスタンでの経験を話されるなかで、「国籍はついてまわる」と語った。アフガニスタンでは現地の人々が「(武器を回収に来た)あなたが日本人だから、武器を引き渡すのだ」と言ったそうだ。当時、日本の自衛隊は「不朽の自由作戦」でアフガニスタンへ向かう米軍等の艦船に給油を行っていた。瀬谷さんは彼らに「日本がそのような活動をしているとは言えなかった」そうだ。世界や外国に出たとき、どうしても自分と「国籍」は切り離せない。わたしたちは「日本」を背負い、背負わされて活動していくことになるのだ。そうした自覚は忘れてはならないだろう。また、「自分が(現地の人にとって)外国人であることを忘れない」という瀬谷さんの言葉は、国際協力を志す学生の良い教訓だ。JCCPの活動に表れているように、支援や協力は現地社会の自立につながってこそ価値がある。日本や日本人だからこそできることを考え、それを現地に根付くような形の支援に落とし込んでいく柔軟な思考が求められている。
講演後の質問会では、瀬谷さんは「武装解除は隙間産業なのではないかと思う」と話された。まずは生き方の選択肢がある自分だから、日本だからこそできることをじっくりと考える。そして学生の間にできるだけたくさんの経験を積んで準備し、恐れずに世界に飛び出すこと。それがわたしたちへの最大のアドバイスだった。

(担当:教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース3年 藤沢祐未)

講義の様子

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