企業の先端技術を学び、新たな可能性を模索しよう

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2017年度-課題2:快適な車内空間を考える

公開日:2018年1月9日

投稿者:advtech

授業担当

松本悠(東京大学教養教育高度化機構初年次教育部門)
上野裕子(株式会社リバネス)

杉山直之様(東レ株式会社、東レリサーチセンター総合企画室)

概要

東レさんの得意分野の一つである、さわり心地の良い生地製品をスタートに、今後の自動運転技術が進展する車の車内空間を快適にするために、何が必要か考えてもらいました。学生は6つの班をつくり、それぞれでどのような感触が重要か、その感触を数値化するにはどのような測定をすれば良いか、その数値のどの領域が「心地良い」のか、を実験を重ねてプレゼンをしてもらいました。その過程で、感触だけにこだわらず、「心地良さ」への様々な観点を提案してもらいました。

授業の流れと様子

初めに、東レからお越しいただいた杉山直之様から、企業紹介や製品の説明、そして東レとして今後の社会で貢献できる分野を提示していただきました。その中で、特に車内空間の快適さを求める上での課題の提示をしていただきました。

自動運転技術が進歩し、車内で過ごす時間が単に移動の時間ではなく、快適に過ごす空間になりつつあります。その時に、人が感じる感触の中で、どの点に注目して開発を進めたらよいのでしょうか?

例えば、iPhone7以降のホームボタンは、実際には押しても押し込まれるわけではなく、カチッという振動が生じ、指で押したという疑似感覚を生じさせています。このように、コンピューターに人の感覚を組み込む技術、ハプティック技術が浸透しつつあります。人の感触を、数値化する事は、今後大切な科学分野になるでしょう。

 

学生は、6つの班に分かれ、それぞれで快適とはどういう事かを議論してもらいました。車内空間という事でしたが、そもそもの”車内”というイメージや存在意義から議論する班もありました。まずは快適さについて、共通の感覚認識を持てるよう「さらさら」「ふわふわ」といったオノマトペで表現してもらいました。そしてそのオノマトペを数値化するには、どのような測定をしたらよいか、実験計画をたててもらいました。

中には、なかなかオノマトペで表現しづらいものもありましたが、、それだけ快適さについて様々な切り口で臨んでいた証拠だと思います。限られた材料や測定機のなかで、温度変化や硬度を測定したり、空間自体の狭さにも着目した班もありました。

最終的に、その快適さをどのような実験で数値化したか、その数値のどの領域が心地よいと感じるか、できるだけ具体的な方法論をまとめて、発表してもらいました。各班の発表に対して、東レの杉山さんから質問や意見をいただき、また最後まとめての講評および、質疑応答の時間を設けました。

学生のレポート

1班:ひじ掛けの心地よさ

車の中でも、シートではなくひじ掛けに注目した班でした。腕や肩にかかる負担を軽減するために、ひじ掛けの適度な硬さが、快適さにつながるとの仮説を立てました。

材質は(人工)綿で、同じ大きさのビニール袋に、詰める綿の量を1から5まで段階的に調節し、綿の密度に対する沈んだ深さと、心地よさの関係を数値化してくれました。

心地よさとの比較では、肘を実際に置いた時の高さも重要であったり、綿以外の材質の場合の比較も必要であった、などの反省点が挙げられました。

2班:心地よい=「無刺激」か?

2班は、刺激が少ない事が心地よさにつながるのではないか、という仮説の下、摩擦を測定し、摩擦係数と心地よさとを対比させた結果、ある程度の摩擦が必要という結論に至りました。それを受けて考察し、再実験として水平方向の刺激に対して、垂直方向の刺激も取り入れようという方針になりました。

縦方向の刺激は、硬度という尺度で数値化しました。「ふわふわ」とは異なり、あくまでクッション表面素材の、水平刺激(=摩擦)と垂直刺激(=硬度)の、2次元分布と心地よさを対応付けてくれました。

素材の表面の状況によって感触が変わることに今後の課題を見出していました。湿度や織り目の差を考慮に入れた比較実験をすべきと反省点を挙げてくれました。

3班:包容力

3班は、包み込むような感じが心地よい、という事で包容力というキーワードで数値化を試みました。包容力といっても何を持って数値化するのかは複雑なので、柔らかさ、摩擦、広さ、の3点について実験をし数値化してくれました。

柔らかさは、一定面積を同じ質量で押し込んだ時(つまり等圧力)の沈み込みの距離で数値化しました。広さは、座った状態で周囲を段ボールで囲った時、ちょうど良いと感じる幅を測定し、心地よさと広さの関連付けを行いました。

3班は、結果のグラフ(例えば沈み込みの距離と心地よさの点数のグラフなど)を関数でフィットしてくれましたので、どのような領域が心地よいのかが一目瞭然でした。しかし、材料のサンプル数の少なさや、心地よさを決定するための個人差が大きい事を、課題として挙げていました。

4班:心地よさはふわふわだ

4班は、体にフィットする感じや、揺れの軽減などの点から、「ふわふわ」が心地よさにつながると考えました。

「ふわふわ」の数値化は、一定面積で一定の厚さの綿を積み重ね、一定の重さで押した時の沈み込みの距離で数値化し、押された綿の側面を触る事で、心地よさと対比させました。同一素材で柔らかさを変化させた点は、1班と同じ方向性でした。

結果は、柔らかければ良いというわけではなく、ある程度の硬さが必要であると結論付けられました。4班は綿しか素材として扱わなかったのですが、どんな素材でも共通して使用できる一定の基準があると良いと提言してくれました。

5班:違和感の無さ=フィット感

5班は、違和感がない、ということが心地よさにつながるとし、では違和感が無いとはどういう事かという点で、フィットする感じ=沈み込み度合い、という着眼で実験を進めてくれました。

測定は、一定面積を一定質量で押した時(一定圧力)の沈み込みの距離をで数値化してくれましたが、様々な材質の物を用意し、データをたくさん取ってくれました。フィット感は、班員それぞれがつけた順位の合計点数を数値としました。

結果は、いくつか外れている素材もあるものの、ある程度予想通りの、山を描いたグラフになり、良い指標となる可能性を示してくれました。が、素材の表面にも着目すべきで手触りの良さの実験も必要であると、課題も提示してくれました。

6班:蒸れないシート

6班は、心地よさにつながる観点を、多方面からいくつか挙げてくれました。無臭である、揺れが無い、蒸れないといった観点がありましたが、測定しやすさと測定機材の関係から、温度しか測定できないものの「蒸れない」という点を選んでくれました。

色々な素材を椅子に敷き、その上に座った状態で素材の温度を3分毎に15分間測定して、椅子から立ち上がった後も表面温度の測定を続けました。

今回は、材質の温度が31度に以上になるまでの時間で、蒸れなさを数値化しました。が、機器が十分にない事もあり、測定方法に問題があると自覚していました。含有水分量(湿度)や、サーモグラフィを使った測定、1時間程度の長時間の測定が必要、と問題点を挙げてくれました。

学生の感想

5stars

「目指すべきもの」を決めてから実験を行った方がよかった、と杉山さんがおっしゃっていたのですが、僕らの班が最初に目指していたことと似ていたので、アプローチ方法があながち間違っていなかったことに少し安心した。 同じような実験(データの関数化)をマツダ自動車が行ってるということを聞いて、実績ある企業と同じことを考えついたという嬉しさ反面、独自色が薄かったという悔しさもあった。 ただし、耐久性などのように全く考えていなかった視点が多々あったことが大きな反省点だと感じた。 プレゼンのやり方など、今後の他の科目などでも活かせることを教わったことはとてもありがたいことだと思います。

実験に関しては、方向性をもっと明確にできるとよかったと思った。また、発表時間の配分が難しかった。最新研究をもう少し調べたり自分で長時間車に乗るなどして問題点を明確にできるとよかったと思う。

蒸れ、摩擦など自分の班にはない要素を取り入れたいと思いつつ、それらの実験が主観に頼ることが多く、サンプル数が少ないことを懸念しているのは自分たちの班にも通じることだと思い、そこを課題にしていきたいと感じた。

数学的な分析によって説得力が増すことを実感した。どれだけ数値を定量化できるかによって結論も変わってくると感じた。

現状の分析、そしてそこから何を改善すべきかということが明確化している班があったので参考にしたいと思った。しかしながら、結論があまりよくわかりにくかった班もあったので、僕達の班は結論が他の人に伝わりやすいようにしたいと思った。また、学生が考えていることはすでに企業の方々がすでに考えているということを知り、改めて企業の努力には感心した。