2017年度-課題3:二酸化炭素の利用方法を考える
公開日:2018年1月12日
投稿者:advtech
授業担当
松本悠(東京大学教養教育高度化機構初年次教育部門)
環野真理子(株式会社リバネス)
佐藤裕 様(株式会社IHI 技術開発本部基盤技術研究所応用理学研究部応用技術グループ 副主任研究員)
概要
温暖化対策の一つとして、排出された二酸化炭素を地中に固定化する方策(CCS)があります。しかし、地中固定化では二酸化炭素を廃棄するだけで、地球規模の物質の循環サイクルから外れてしまいます(長期的に見れば二酸化炭素は地中に吸収されサイクルしているとも取れますが)。そこで、上手く二酸化炭素利用して社会に還元できる方法はないか、現在の技術や実際に行われている研究を調べ、社会の需要や解決しなければならない問題点等を調査し、より現実的な二酸化炭素利用のアイデアを出してもらいました。
授業の流れと様子
初めに、株式会社IHIの佐藤様より、IHIの企業説明や製品の紹介、今現在の取り組んでいる課題等をプレゼンしていただきました。今回の課題は、「地域で排出されるCO2の活用方法を考えよう」でした。CCS(Carbon Capture and Storage)から、CCU(Carbon Capture and Utilization)へ、つまり二酸化炭素を埋めるだけではなく活用しよう、という動きへ変化しつつあます。
二酸化炭素の特性を学び、今現在どのような二酸化炭素利用技術があるのか調査し、必要であればヒアリングを行いました。また利用者の立場から、二酸化炭素のイメージや、どのような需要があるのか、アンケート等で調査し、どのような場所で利用できるか、アイデアをまとめてもらいました。
最終日では、各班が出したアイデアを開発部の方々にプレゼンをしてもらい、色々な意見をいただきました。また、講評をいただくと同時に、学生からの質疑応答の時間も設け、企業の方との交流もしました。
学生のレポート
1班:リラクゼーション効果に利用
1班は、二酸化炭素の濃度によっては、副交感神経そ刺激し眠たくなる現象を逆手にとって、リラクゼーションに利用する、というアイデアを出してくれました。
利用場所は、病院や保育園など、リラックスを必要としている施設を想定していました。問題として、二酸化炭素には温暖化の原因としてのネガティブなイメージが根強いことを挙げ、これを払拭するキャンペーンが必要であると提案してくれました。
他にも、二酸化炭素を部屋に満たすという事は、集めた二酸化炭素を再び大気中に放つことになるのでは?という質問もありました。
2班:窓の断熱効果に利用
2班は、日本家屋の断熱効果が、海外に比べ劣っている点や、ヒートショックによる死亡件数が多いという、問題点をしっかりと明確に持ってスタートしました。既にアルゴンを使った複層ガラスが開発され、断熱効果が示されている事も調べ、製造している会社にヒアリングも行いました。
そこで、アルゴンの代わりに二酸化炭素を使った、断熱効果の高い窓ガラスを作る事を提案してくれました。二酸化炭素でも十分アルゴンの代わりに利用できることを、熱伝導率の観点からもしっかり説明していました。
問題点として、生存の過程で新たな二酸化炭素が生成されるのでは意味がないという、LCA(Life Cycle Assessment)の観点からの考察もしっかりとされていました。また、断熱ばかりに注視していたので、逆に家の中が暑い場合はどうするのか、という質問もありました。
3班:電車内での植物栽培に利用
3班は、満員電車内での人呼気による二酸化炭素を、植物栽培に促進に利用するアイデアを提案してくれました。
具体的に、満員電車内の二酸化炭素の濃度で、栽培促進が期待できるかヒアリングも行い、現在の技術でも実現可能であると示してくれました。ただ、実際に息苦しさの改善には直結しない点も、人の吐く二酸化炭素の量とキャベツ1個が成長するまでに必要な二酸化炭素の量を比較することで、示していました。
その代わりに、電車内に緑があるという事で、ヒーリング効果が期待できるとのアンケート結果や、鉄道会社で植物栽培する企業もある、という事をプレゼンしてくれましたので、展望がしっかりと描かれていました。
学生の感想
満員電車の息苦しさなど、身近に潜んでいる改善されると嬉しいものに着目して研究を進めていたのは今後自分でやる時に生かせると感じた。一方で、全体的になんでIHIがやるのか、他ではなくIHIがやる意味などがはっきり出ていると更によくなったと思います。
企業の方々を前にしてビジネスプランを提示するという高度なプレゼンテーションをする中で、どの班もしっかりと企業の収益性とリスクを共に考えている点が良かったと思った。今後、自分が何らかのプレゼンをする際には、聞いてくださる方々の興味関心と彼らの実益とを考え合わせたものにすることが大切だなと感じた。
リラックスの班に関して、マスクを使って吸入させる方法を老人ホームで用いて大人しく寝てもらうのが良いのではないかと思った。窓ガラスの班に関して、二酸化炭素ではなくアルゴンが用いられている理由が明確になり、実際に二酸化炭素で代替できるなら素晴らしいアイデアだと思った。植物電車の班に関して、特にエアプラントを用いればうまくいくのではないかと思った。実現可能性は別にして突飛なアイデアもヒアリングまで進めると面白いということがわかったので、ブレーンストーミングではよく言われるアイデアの批判は禁止というルールの重要性を実感した。
今回のプレゼンでもっとも印象的だったのは、どの班もプレゼンを届ける相手であるIHIさんが、自分たちのアイデアのなかでどのような役割が持てるのかを具体的に示せていたことです。製品開発では、せっかく商品を売り出しても消費者の心を掴まなければ意味がないという点で、街頭調査を用いて人々のニーズを把握することは重要だと思いました。文系の立場からみると、このことは研究だけでなく法律や制度を作っていく際にも極めて重要なことだと感じました(国民の法感情に寄り添うような裁判の判断や、実際のお金回しを現実化する制度など)。
IHIの方々のアイデアはほとんど上手くいかないという話があったのがとても印象的でした。自分たちの考案したアイデアは収益性という点で問題があり、時間の制約の中で調査しているアイデアが少し納得していないところがあったが、実際に事業開発に携わっている方々も同じように不安を抱えながらトライアンドエラーを繰り返してるという話を実感した。アイデアを多く考えて試してみるということの重要性を学んだ。
自らの案がどのような方向に役に立つのか・現在のどのような課題を解決できるのかを具体的に考えていくことが大切だと思った。また「なぜ自分たちがやらなければならないのか」という部分は常に考え続けなければならないと思った。この部分がしっかりしていなければおそらくその事業は続かないと思ったし、それこそが同じようなものがありふれたこの社会において自らの道を進むときに必要なことだと思った。