ウズベキスタンとマハッラ
公開日:2011年8月30日
投稿者:uzstudent2011s
中央アジア、その中でも実際に現地を訪れることになったウズベキスタンに関して調べていく中で私が興味を持ったのが「マハッラ」と呼ばれるものである。しかし、ウズベキスタンについての認知度がまだ低い日本において、この国に特徴的な制度であるマハッラというものを知っている人はそうはいないと思う。ウズベキスタンにおいて常に人々の中に存在してきたマハッラ、この記事ではマハッラとはどういうものかについて私なりに書いていこうと思う。
帝政ロシア時代、ソ連時代、ソ連崩壊後ではその位置づけなどが異なっているため、以下では伝統的なマハッラに関して述べようと思う。マハッラとは?それを簡単に言うと、ウズベキスタンにおけるオクソコルと呼ばれる長老を中心とした地縁共同体のことである。ここには日本における町内会の制度と類似するところも多くある(基本的には異なる)。例えば、日本の町内会において共同で葬式や祭りを行うところがあるように、ウズベキスタンでも結婚式や割礼、葬式・法事、宗教的儀礼は伝統的に同じマハッラ内の住民が協力しあい大規模に行われてきた。結婚式や葬式に関しても家族だけでは規模が大きすぎて執り行うことができないことから皆で手伝うというのが慣習のようである。但し、マハッラは非国家組織であることもあり、その活動はあくまでも自発的なもので、参加するしないは個人の自由ではある。実際、マハッラのアイデンティティをもたない都市部の人やウズベク人以外のロシア系民族などの活動への参加は消極的なことが多いようである。
マハッラの特徴の一つとして近隣住民との関係がある。日本の町内会の現状をあまり把握していないため比較は出来ないが、マハッラにおける住民同士のつながりは強く、ウズベク語に「家を選ぶのではなく、近所を選べ」、「遠い親戚より近所の方が良い」という諺があることからもわかる。この住民同士のつながりの形成にはガプ、モスク、グザル、チャイハネという4つのマハッラにおける共有空間が大きく関わっている。ガプというのはマハッラにおける特別な付き合いの形式であり、イスラム教の礼拝堂であるモスク、商店街などサービスの集中する場所であるグザル、そして日本の喫茶店に近いチャイハネでは集まる層などは異なるがどれにおいても人々が集まり世間話などをし一体感を高めることができ、住民がマハッラの一員としてアイデンティティを再認識する空間ができている。
もう一つ重要な特徴として、マハッラでは出来る限り皆で平等に負担し、解決していく精神が見られる。これがよく表れている仕組みが次に述べるハシャルという制度である。ハシャルとはマハッラ内における伝統的な助け合いの仕組みの一つで、この制度で同じマハッラ内に住む人々が互いに助け合って生活を成り立たせている。例えば、マハッラ内のどこかで家を建て直す時にはみなが集まって作業をし、その助けて貰った人は次にどこか他の家を建て直す際には手伝う必要があるといったところにハシャルは見うけられる。
マハッラにおけるこういった特徴を見ていくと、昔の日本の様子が想像され、例えばマハッラのグザルにおける世間話というのはかつての日本の井戸端会議に近いものであると考えられる。しかし、ウズベキスタンのこのような伝統も残念ながら日本が辿ってきたように都市化や欧米文化の流入などの理由により失われつつあるといわれているし、助け合いの精神など集団(全体)主義が伝統的であったマハッラで個人主義が見られているのは悲しいものがある。
欧米文化の流入が悪いとは一概には言えないが、ウズベキスタンにおけるマハッラの役割をどう定めていくべきか考えることは大事で、マハッラを通していかに住民の生活を充実させるなどの実質的なことだけではなく、伝統的なマハッラ内のつながりを維持することも必要であると思う。
参考文献:「マハッラの実像―中央アジア社会の伝統と変容」 ティムール・ダダバエフ 東京大学出版会
「「教育」する共同体」 河野明日香 九州大学出版会
(文責:理科二類二年 栗原)