理想の教育棟・ZEBLOG

東京大学駒場キャンパス・理想の教育棟のZEB(Zero Energy Building)広報チームの活動レポートです。

奈尾先生 復習記事

公開日:2012年2月18日

投稿者:nagashima

先日の奈尾先生の講義について復習して行きたいと思います。建築意匠を専門にされているということで、オランダの建築・デザインに関する様々なことを話して下さいました。その中でも特に熱く語られていた、デザインが発展する土壌がいかに整備されてきたかという点についてまとめようと思います。

インフラストラクチャー

オランダは国土のおよそ1/4が海面下に位置しており、そのうちのほとんどはポルダーと呼ばれる干拓地です。オランダのランドマークとなっている風車はそれらの土地から水を汲み出すための装置で、これが止まると大変なことになってしまいます。治水は水管理委員会という独立行政機関によって行われており、海岸地域の国土は基本的に国や自治体が管理している国有地です。運営は国営事業として行われ、土地を賃借制度という形で管理し用途を画一的に指定することが出来ます。これによってオランダの整った景観が実現されており、またこのシステムこそオランダがデザインを基幹産業として育成することに成功した鍵でした。農業や工業といった産業を主と出来なかったオランダがデザイン先進国として発展することができた背景には、こういったインフラの整備が欠かせなかったのです。

産業クラスタ

クラスタとは英語で群れを意味する言葉です。産業クラスタとはその名の通り、ある産業に関して中小企業から大企業、さらには大学などの研究機関などがひとつの群れのように集積したシステムのことです。たとえばアメリカのシリコンバレーはIT産業クラスタとして有名ですが、これは生態系ピラミッドのようなシステムを構成しています。ピラミッドの裾野では無数のベンチャー企業が独自の技術や発想を武器に熾烈な競争を繰り広げ、その上にはマイクロソフトやグーグルなどの大企業が位置します。ベンチャーの開発を支援しているのがベンチャーファンドであり、ベンチャー企業は専らこれらのファンドから出資を受けて成立しています。そして結果を出して成功したベンチャーは大企業に買収されて新しいイノベーションに貢献したり、はたまたアップルのように大躍進を遂げることもあります。そしてファンドは利潤を回収し、つぎのベンチャーに出資するというような構造です。

オランダのデザイン産業

そしてオランダのデザイン産業にも同じようなクラスタが形成されています。中身はというと、自治体がある区画に対して都市計画を立てるとき、その設計やデザインの仕事を国内の若手デザイナーや建築家へと斡旋するというのが基本的な構造です。

もちろん一方で国は、国内外で活躍できるデザイナーを育成するための支援制度を整え、デザインスクールなどへの補助を行います。そして公共事業のような雇用を創出することによって、新進気鋭のデザイナーが活躍する場所を提供するのです。これは先ほど述べたように国や自治体が土地を管理しているからこそ可能になるのであり、日本でこのシステムが実現できるかと言えば相当に難しいのではないかと思います。

こちらのサイトは、ライデン大学医療センターで用いられている照明技術を紹介しています。

サステイナビリティ

政府主導で回っているこのサイクルはもちろん完全なものではありません。若手デザイナーから成長し、ある程度名が売れるようになれば、自分の作品を自由に作ることが出来ないということに不満が出てきますし、雇用は若手デザイナーへと斡旋されるので、国内での仕事がなくなり必然的に国外へと活動の場を移していくようになります。とはいえ、このような循環型の産業構造も、サステイナビリティを体現したひとつの形だと考えることができるのではないでしょうか。奈尾先生の考えるサステイナビリティは、人工物のサイクルと自然物のサイクルをそれぞれ完全に独立させるというもので、今まで私たちが漠然と捉えていたものとは少し違った視点を提示されました。その話をされていたときの文脈はエネルギーの循環や食料の問題に関してのトピックでしたが、このような産業構造のサステイナビリティを考える上でも重要になってくることだと思います。

今回の講義では、都市計画の変遷をたどり、オランダ・モデルの都市計画の概要が説明されました。都市環境を持続可能なものとするためには、その空間で行われるサイクルも持続可能なものでなければならず、そのサイクルには産業も含まれる。今のオランダのデザイン産業がそのようなサイクルの中で出来上がったものだということには驚きました。人口も不動産の所有形態も違う日本で、このケースを直接あてはめることは難しいかもしてませんが、日本に持続可能な産業クラスタを形成するためにはどうすればよいのか考えてみたいと思います。

(文責:永島)