長 有紀枝(5月16日)
Osa, Yukie
認定NPO法人 難民を助ける会 理事長
立教大学社会学部 教授
1987年 早稲田大学政治経済学部政治学科卒業
1990年 早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了
1991~2003年 NPO法人難民を助ける会勤務 紛争地での緊急人道支援や地雷対策に携わる
2004年 東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻(「人間の安全保障」プロ
グラム)博士課程進学
2006~2011年 NPO法人ジャパン・プラットフォーム共同代表理事
2007年 東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻(「人間の安全保障」プロ
グラム)博士課程修了、博士(学術)
2008年~現在 難民を助ける会理事長
2009~2010年 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授
2010年~現在 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授・立教大学社会学部教授
[主な著書]
『スレブレニツァ あるジェノサイドをめぐる考察』(東信堂)
講演要旨
NGOの可能性と限界。学生時代からNGOでのボランティア活動を始め、NGO法人難民を助ける会の理事長を勤めていらっしゃる長さんの講義は、NGOという組織が構造的に抱える二つの側面の提示から始まった。第一の側面として、活動の趣旨の一貫性を保つため、徹底的な分業体制のもとでNGOが活動しているということである。これは、専門性に特化しているという面では大変合理的なシステムで連携が取れているといえる。しかしその一方で、その分業体制が個々のNGOの活動の幅を限定的なものにしてしまうという側面もある。この仕組みはNGO同士の相互補完が保証されてこそ正常に機能するものであるため、NGO間での密接な情報交換と互いへの信頼が必要とされるのである。
また、長さんの活動における代表的な功績として、ICBL(地雷禁止国際キャンペーン)がある。これも前述の通り、キャンペーンを行う上で焦点のブレが生じることを避けるため、地雷問題という幅広い問題の中から「対人地雷の廃絶を訴える」という一点に目的をしぼって行われた。後にオタワ・プロセスと呼ばれるように、政府とNGOが軍縮分野で協力するという形は新しい試みとして注目され、多くの人や組織の協力をもって地雷禁止条約が実現された。この功績が認められ、ICBLは97年、ノーベル平和賞を受賞している。
講義の中で、「人情と人道」という言葉が挙げられていた。「人情」とは直接自分とつながりがある人々につながっていこうという意識であり、「人道」とは全く自分とは関係のない人々に対して、自分の身の回りの人々に持つ意識と同じような意識が持てることであるという。そして国際的課題に取り組む際の姿勢で不可欠なのがこの「人道」である。キャンペーンにおける成功も、ひとりでも多くの人に問題意識を持ってもらうことだといえる。「心にシャッターを下ろして自分には関係ないと思わないでほしい。個人が国際社会に対して関心を持ち続けることが大事。」私たち一人ひとりにそう訴えかける長さんの真剣な眼差しが印象的であった。
(担当: 文科三類1年 前田真美)
講義の様子
前回の柴田講師のお話を受け、NGOの活動について詳しくお話いただきましたが、それ以外にもご自身が研究されたスレブレニツァのジェノサイドについてや、アメリカ留学中と日本帰国後に感じた人種や民族差別の問題など、多様な分野にまたがる講演内容となりました。
シングルイシューに特化して活動することが出来るのがNGOの特徴であり、だからこそステレオタイプのイメージに当てはまらないような、規模も活動内容も多種多様なNGOが存在すると語る長講師。
講義後のディスカッションのまとめ
今回のディスカッションは、講演者の長氏を交えて行われた。長氏は講演中、(東日本大震災を含め)事件に関心を関心を持つことの大切さを強調されていた。講演終了後、それに関連するテーマで学生たちに議論してもらいたいものを長氏に尋ねたところ、「周りの事件に関心を向けるためにはどのようにすればいいか」を議論して欲しいと答えて頂いたので、これをディスカッションパートの大きなテーマとした。
ディスカッションは、インターネットがどの程度情報収拾に有効なのかについての議論から始まった。参加者からは、東日本大震災を具体例として挙げつつ、情報の信憑性や情報の偏在についての意見が出された。長氏や岡田先生もこのことについてそれぞれの専門性を踏また意見を添えられた。その後、話題は情報のあり方を軸に様々な方向に及んだ。
今回のディスカッションパートでは、所期のテーマに関して明確な着地点があった訳ではないが、参加者が自由に意見を述べ、穏やかな雰囲気の中で議論できた。このことは、今回の講演内容を整理し、自分なりの考えを組み立てる上で有意義であったのではないかと感じた。
(担当: 文科一類1年 白石智寛)