2014年夏学期 テーマ講義:東京大学教養学部

柴田哲子(5月 9日)

Shibata, Noriko

特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン 東日本大震災緊急・復興支援部コミュニケーション・マネージャー
元特定非営利活動法人ジェン カブール事務所長

 

東京外国語大学卒業後、国際協力銀行(当時海外経済協力基金)入行。中央アジア・コーカサス地域向け円借款事業、平和構築事業に関する委託調査、広報、債権管理等を担当。同行を退職し、特定非営利活動法人ジェンに参加、事務所長としてアフガニスタンに赴任。治安状況が悪化する中、2カ国にまたがる3事務所を統括し、復興支援事業を実施。帰国後、出産・育児のためにジェンを退職。約2年間休業していたが、東日本大震災を機にNGOの一員としての活動を再開した。

柴田氏の執筆した記事

JENアフガニスタン 柴田哲子の『雲外蒼天』
「人、世界が舞台」(インタビュー)『読売新聞 衛生版』 2008年8月
「国際協力の現場で活躍する日本人」『外交フォーラム』 2007年6月

東大生へのメッセージ

日本にも、世界にも、取り組むべき数多くの課題があります。
どのような分野の職業に就くにしても、それら課題の解決にチャレンジ出来るならば、一日の1/3以上の時間を過ごす仕事人生はとても充実したものとなるでしょう。
そして、課題解決のためには、強い想いと物事を動かすことのできる力が必要です。どのような環境でも保ち続けられる想いを見出すためには、自分の指向や適性について考え抜き、様々な分野で働く人と会って話を聞くことが有益だと思います。また、どのような環境でも通用する実力を身に付けるためには、若いうちに自分を成長させるハードな環境(無謀な冒険ではなく)に身を置き、失敗をする経験を積むことが有益と考えます。

それから、社会生活を送るための基盤となる、私生活も大切ですよね。私も、理解ある家族や、刺激を与えてくれる友人達に感謝しています。アフガニスタンにおける家族・親族の繋がりは、大変緊密でしたが、厳しい環境にあるからこそ、人間にとっての根源的なものが明確になるのかもしれません。平和で恵まれた環境に居るときこそ、家族や友人と過ごす時間を大切にできると良いなと思います。ちなみに、出産・子育て期間中は、一般的に時間的・身体的制約のため無理が効かないことを想定した上で、キャリアプランを立てられるとベターです(私は、現在小さな子どもの子育てをしており、日々の生活を通じて得た自戒を込めたメッセージです(笑))。

私自身、今もキャリア開発の途上にあり、仕事を通じて自身の成長を図る過程にいます。そのような状況でメッセージを送る立場に立たせて頂くのも僭越かとも思いましたが、これまで、人生の道程で迷ったり悩んだりした時には、様々な人から話を伺ったり、相談させて頂くことで少しずつ歩を進めて来ました。今回、同様にこれからの人生について真剣に考えている若い皆さんに、少しでもお役に立てることがあればと思い、引き受けさせて頂きました。

当日皆さんにお会い出来るのを楽しみにしています!

講演要旨

今回お迎えした柴田哲子さんは自らのご経歴と私たち生徒に伝えたいメッセージを、現場での写真も交えながら和やかな雰囲気で話して下さいました。

柴田さんは高校生の時、「人生とは何か」などを考える中で出会ったドフトエフスキーらのロシア文学に感銘を受けてロシア語学科に進学されました。それを活かして通訳アルバイトをしていた際に北方領土島民の方に生活困窮を訴えられ、国際協力に携わる仕事をしようと、現在のJBICに就職されたそうです。そこではやりがいのある仕事にも同僚にも恵まれていましたが、「現場への渇望感」と「肩書き無しに自分の実力で勝負できるようになりたいという気持ち」から、自己分析を経てNGO「JEN」へ転職され、アフガニスタンへの支援活動に携わる様になりました。そこではやりたいことをスピード感と実感を持ちながら自由にできる一方で、人材流動性の高さや資金獲得、政策提言能力向上などの改善点も見られたそうです。現在では育児を楽しみながらも新たなNGO「ワールドビジョンジャパン」で活動を始めていらっしゃいます。

これからの時代を生きていく上での私たちへのメッセージとしては、自分のライフテーマとなるような「想い」を見つけ、それを達成するためにはチャレンジを恐れないこと、そして、学校・友人など身近な人たちとの繋がりを大切にすることを伝えて下さいました。

(担当: 文科一類1年 山添慎一郎)


今回の震災にもふれ、大切な人をいつ失うか分からないからこそ、恵まれている日常生活において家族や友人との繋がりを大事にして欲しいと語られました。

講義後のディスカッションまとめ

今回の講演後ディスカッションは、柴田さんご自身も交えて行うことができました。それを活かし、まず前段階として現地のNGOの住み分け・協力・情報交換について詳しくお話を伺った後、ディスカッションへと移行しました。

アフガニスタンでは現在、NGOの他に国連機関や治安維持軍などが混在する中で支援が行われています。ゆえに多くの団体を交えての会議を定期的に開き、支援分野の過疎過密を防いでいます。また安全面が懸念される地域であるため、セキュリティ面について現地の各NGOを統一するNGO(ANSO)が存在し、情報の収集と提供を行っています。NGOの中でも、末端活動を主とする団体と統括を主とする団体という階層が存在することを皆さんご存知だったでしょうか。

ディスカッションで中心となったのは、これまで本ゼミにおいて繰り返し強調されてきた『発信』を、具体的にはどうすれば効果的に行えるかという問題です。たとえば、著名人を上手く起用する、受け手が実体験することで活動に興味を持てるような発信手段を考える、ユニークな発信方法をコンテスト形式で募集する、などです。これはNGOに留まらず、今回の東日本大震災支援やその他あらゆることに応用可能な議題であると思いますが、問題点として①情報の氾濫する現在において、特定の情報に注目させることが逆に難しいこと、②発信手段がステレオタイプ化・マンネリ化すると逆効果になりうること、などが挙がりました。特に②は、インパクトの新鮮味を持続させることが大きな難点です。発信の受け手の中心となる我々の世代が、逆にどのような発信なら自ずと能動的になることができるか、応用範囲の広いこの問題を皆さん是非考えてみてください。

(担当: 文科一類1年 杉原真帆)