2014年夏学期 テーマ講義:東京大学教養学部

神馬征峰(5月23日)

Jimba, Masamine

東京大学医学系研究科国際地域保健学教室 教授
元ガザ地区WHOヘルス・コーディネーター

浜松医科大学卒。医学博士。医学生時代、恩師・故伊藤邦幸氏と出会い,国際保健を志す。卒後,飛騨高山赤十字病院,国立公衆衛生院、ハーバード公衆衛生大学院へ。その後1994年から2年間,WHOガザ地区事務所長兼ヘルスコーディネーター。1996年から5年間、 国際協力事業団・日本医師会によるネパール学校地域保健プロジェクト・チームリーダー。その後「武見フェロー」として,ハーバード大で国際保健研究を終え,2002年7月より日本をベースに活動。紛争国や南アジアでの生活経験をもとに,国際保健研究・教育に従事。

講演要旨

恩師伊藤邦幸先生の影響と,学生時代にNYで知り合った黒人女子医学生の影響で国際保健を目指す。インドに単身で旅行する中で原体験(=自身の思いを確固と根付かせるような衝撃的な体験)を積みその思いは確固としてゆくのだが,医師としての生活に忙殺される日々がしばらく続く。しかし,自身の病気をきっかけにその思いは卒業後9年目にして実を結び,晴れてWHOガザ地区の緊急支援活動に携わり始める。日本の支援手段に関する批判や,国際保健の政治的一面,権力を持つにつれ現場の声から遠くなる状況など,様々な困難を抱えつつも貴重な仲間にも恵まれ,次第に「自分を待ってくれる人がいる」という生き甲斐を感じながら国際保健の最前線で戦ってゆけるようになる。しかし権力を持つにつれて「真理を語る」ことはどんどん難しくなってゆく。特にしたたかな駆け引きや交渉が要求される国際保健の世界ではなおさらである。そんな中でも実践と理論の絶え間ない弁証法的展開の中で真理を見極めてゆき,勇気を持ってその真理を発信してゆくことが大事である。

(担当: 理科三類2年 上野 諒)


自分が真理と信じることを、たとえ自己が危険にさらされようとも、語り続けることの重要さを、ミシェル・フーコーの思想に触れながら語る神馬講師。権力を持たずとも、自由な批判をし、自ら信じる真理を語るという行為に必要なのは、記憶でも訓練でもなく、勇気が求められるとおっしゃいました。


恩師である伊藤邦幸先生との想い出にも触れながら、自身がこれから国際保険の分野で「根」を持って活動していけるかどうか模索していた時期の体験について話される神馬講師。

講義後のディスカッションまとめ

ご講演後のディスカッションでは,神馬先生に同席して頂きご講演の中で出てきた様々な思想家の話を中心に伺いました。特に,今回のテーマの1つである「思いを根付かせる」ことに強く結びついている,神馬先生のご自身の宗教観はとても勉強になりました。自分の思いを確固とさせるような原体験を根付かせるには,神的な存在にその思いをゆだねることも一つの手段であるというお話は無宗教の私にとってなかなか難しい考え方でした。しかし,宗教を信じるということが自身の価値観を根本的に再定義することにつながるという神馬先生のお話を伺うと,外部に自信の拠り所を置く論理も納得できました。

(担当: 理科三類2年 上野 諒)