2014年夏学期 テーマ講義:東京大学教養学部

船橋洋一(7月1日)

船橋洋一Yoichi Funabashi

一般財団法人 日本再建イニシアティブ 理事長

朝日新聞社主筆

慶應義塾大学特別招聘教授

 1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。

 1968年、朝日新聞社入社。米ハーバード大学ニーメンフェロー、朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、米国際経済研究所(IIE)客員研究員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。
 1992年慶応大学法学博士。
 2011年9月、一般財団法人日本再建イニシアティブを立ち上げ、理事長就任。福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)のプログラムディレクターをつとめ、2012年2月に報告書を発表。その後国内外にてアドボガシーを行う。2013年3月には、日本再建イニシアティブより第2弾の成果として『日本最悪のシナリオ 9つの死角』を刊行。

 ジャーナリストとして、ボーン・上田賞、石橋湛山賞、日本記者クラブ賞を受賞。主な著書に、『内部―ある中国報告』(83年、朝日新聞社、サントリー学芸賞)、『通貨烈烈』(88年、朝日新聞社、吉野作造賞)、『アジア太平洋フュージョン』(95年、中央公論社、アジア太平洋賞大賞)、『同盟漂流』(98年、岩波書店、新潮学芸賞)、『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機』(06年、朝日新聞社)、『新世界 国々の興亡』(10年、朝日新聞出版社)など。直近の著書では、2011年の福島原発事故の対応をドキュメンタリータッチで追った『カウントダウン・メルトダウン』(2013年、文芸春秋社)がある。

講演要旨

 今回の講義では、元朝日新聞社主筆であり、日本再建イニシアティブの理事長を務める船橋洋一先生にご講演いただきました。先生御自身がグローバルにご活躍されてきた経験から、これまで出会ってきた様々な人々のエピソードを交え、グローバルに活躍するために必要な能力と取り組むべき課題についてお話し下さいました。
 船橋先生は講演の冒頭でテーマとして、「グローバル化する中でどのように自らの付加価値を出していくか」という問題を提起されました。今私たちが生きている時代は、自分をどう表現していくのか、どのように参画していくのか、そしてどのようにステークホルダーとの関係を作っていくのか、が日々試されているというのです。
 そして、自分を表現する上での英語の重要性を強調されました。今の世界では英語能力の戦略的重要性が極めて高いというのです。まず、IT化の進展により急速にネットワークが発展する中、そこにある膨大な情報のほとんどが英語で書かれていることを指摘されます。そしてこの現状を踏まえると、英語で発信できないとメッセージを伝えることができないと仰いました。また、日本が国際的なルール作りに自らの利害を反映させるためには、英語で行われる交渉に積極的に参加していかなくてはいけないのです。多様化が進んでいる国際社会は、様々な国がそれぞれの立場を主張する場となっています。そのような場では、自らの付加価値を出さない限り埋没してしまうというのです。
 また同時に、国内的な状況についても言及されました。例えば、産業の中心がモノからサービスに移行する中で、国際的なコミュニケーション能力が重要になっていると指摘されました。そして、日本の人口が減少に転じ、移民社会という構想が視野に入ってきたことで、受け入れ環境として英語の必要性が高まるといいます。女性や若者のエンパワーメントのためにも英語が重要ですが、そのための環境作りはまだ始まったばかりです。
 グローバルな時代に活躍するためには、英語だけでなくより総合的な戦略が必要だといいます。それに向けてはどのような課題があるのでしょうか?
 船橋先生は以下の点を挙げてくださいました。まず、自らの「ストーリー」を語れなくてはいけないといいます。自分自身の取り組み、営み、経験から、どれだけ相手に自らの「ストーリー」を伝えられるかが重要になるといいます。
 次に、ステークホルダーの重要性を指摘されました。ステークホルダーが誰か、また、自分と相手が夢を実現する際の利害関係はどのようなものかを理解しなくてはいけません。しかし実は、最も理解することが難しいステークホルダーとは自分自身だといいます。自分自身が本当に何をしたいのかということに対する理解と、ストーリーをうまく語ることは密接に関連しているといえるのではないでしょうか。
 最後に、グローバルに活躍する上で不可欠なリーダーシップについてお話し下さいました。現在の日本で最も不足しているのは、このリーダーシップだといいます。リスクを取るべき逆境や、あるいは危機的状況においてリーダーシップが必要とされます。そして先生は、若い人たちは一般的に社会的な信用が不足している反面で、このリスクはとりやすいと仰いました。しかし、そのような状況で発揮すべきリーダーシップについて、日本では学ぶ機会が無いというのです。ハーヴァード大学でリーダーシップに関する授業は最も人気があると紹介された上で、日本においても、どのようなリーダーシップが必要とされ、何がそれなのかを考え学ぶ機会が必要だと話されました。

講義の様子

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「リスクとリーダーシップは強く結びついている」社会で大きなリスクに直面した時、どういうリーダーシップが求められるかを大学時代から考えておくことが最も必要なことだと仰られていました。
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「自分自身の取り組みや営み、経験から、ストーリーをどれだけ語れるか」ストーリーテラーであることの大切さを学生に語りかける船橋さん。