2014年夏学期 テーマ講義:東京大学教養学部

大栗博司(7月 4日)

Ooguri, Hiroshi

理論物理学者
カリフォルニア工科大学教授
東京大学数物連携宇宙研究機構主任研究員

 

1962年生まれ
1986年 京都大学修士課程終了、同年東京大学助手
1988年 プリンストン高等研究所 研究員
1989年 東京大学 理学博士、同年 シカゴ大学 助教授
1990年 京都大学 助教授
1994年 カリフォルニア大学 バークレイ校 物理学教授
1996年 バークレイ国立研究所 上級研究員を併任
2000年 カリフォルニア工科大学 理論物理学教授
2007年 カリフォルニア工科大学 フレッド・カブリ冠教授
2007年 東京大学 数物連携宇宙研究機構 主任研究員を併任
2010年 カリフォルニア工科大学 物理学・数学・天文学部門 副部門長
2011年 カリフォルニア工科大学 数学教授を併任。

アメリカ数学会 アイゼンバット数理物理学賞(2008年)
日本数学会 高木レクチャラー(2008年)
ドイツ連邦共和国 フンボルト賞(2009年)
仁科記念財団 仁科記念賞(2009年)

2010年度、東京大学とカリフォルニア工科大学を同時ビデオ中継で結ぶ「先端物理学国際講義」を開講。(http://ocw.u-tokyo.ac.jp/courselist/783.html

ウェブページ:http://www.theory.caltech.edu/~ooguri/index_j.html
ブログ:http://planck.exblog.jp/
フェイスブック:http://facebook.com/hirosi.ooguri

参考記事

「素粒子論のランドスケープ」『現代思想』2010年9月号
「超弦をめぐる冒険」 『パリティ』2010年11月号

東大生へのメッセージ

江川理事からご依頼を受けた講演の趣旨は、「グローバルに活躍する社会人の方に各々の経験を語って頂き、学生に幅広いキャリアの可能性を考えさせるためのものです」とのことでした。私は理論物理学を研究する大学教授です。通算で20年ほどの間、米国で研究と教育に携わってきました。物理学では基本原理に立ち戻って考えるので、何かがわかった瞬間には霧が晴れたようにすべてが明晰に見わたせる。これが私にとっての物理のおもしろさのひとつです。しかし、今回の講演では、私の研究についてではなく、米国での研究や教育の経験についてお話します。

「キャリアの可能性」を紹介するのにあたり、どのような講演ならば、若い学生の皆さんの役に立つのだろうかと考えました。成功例というのは、その時々の運に左右されるので、再現性がなくて役に立たないかもしれない。むしろ、私のこれまでの科学者としてのキャリアを振り返り、失敗例を分析して、それからどのような教訓が導かれるかを話そうと思います。

皆さんにお会い出来ることを楽しみにしています。

講演要旨

 自身の専門分野に関する深い洞察であっても,人間的な一面でも良いから,どの集団でも通用する「移動可能な価値」を持つ事が世界で認められる上では大事だ。例えば大栗先生自身は数学と物理学の2分野に渡る研究成果が世界で認められる上で大きな武器となった。また,偶然まかされた所長としてのポストで,うまく周囲をまとめられた経験は世界での高い評価へとつながっている。では,いかにして「移動可能な価値」は身につけられるのだろうか?突き放した様な言い方ではあるが,本質的には,自分の愛するものにひたすら取り組んだ結果生まれるものであり,人生の中で自然と生まれてくるものであるから簡単には身につかないのが現実だ。大栗先生が数学の一分野であるトポロジーを研究なさった際には,普段研究なさっているブラックホールとの関係性など全く意識にはなく,トポロジーのもつ数学的美しさやそれへの愛が大きな研究動機となっていた。
 ではそのような価値を「身につけやすく」する事はできないのだろうか?それに関連して重要な姿勢は2つある。1つ目は,人生の流れに従いつつも,要所要所でその流れに楔を打ち込み,正念場だと思ってしっかり判断を下すこと。2つ目は,楔を打ち込むべきイベントは誰にでも来るしどこにでもあるものだから,いざ来たときの為に自分を磨いておくことである。例えば大栗先生にとっては大学院留学の時や研究所所長のポストを打診された時に,これが人生の転機だと「楔を打ち」,本当に熟慮なさったらしい。そして,普段の努力や研究成果があったからこそそのような転機は舞い込んできたのだし,しっかり自身の研究路線に関して将来的な展望を持っていたからこそ,転機において様々な検討が可能だったのである。

(担当: 理科三類2年 上野 諒)

講義の様子

大栗講師講演の様子
学生に向けたメッセージを、「冒険しよう」、「やってみないと分からない」、「移動可能な自分の価値を持とう」などとまとめていただきました。
大栗講師講演の様子
若い人が研究分野の将来を決めるとお話しする大栗講師。