宮城治男(4月22日)
NPO法人 ETIC. 代表理事
1993年、大学在学中に学生起業家支援の全国ネットワーク組織「ETIC.学生アントレプレナー連絡会議」を設立(2000年にNPO法人化)。以来、若い世代が自ら社会に働きかけ、仕事を生み出していく起業家型リーダーの育成に取り組み、これまで約400名以上の起業家を輩出・支援してきた。96年より中小・ベンチャー企業やNPOに学生が参画する長期実践型インターンシッププログラムを事業化。2001年ETIC.ソーシャルベンチャーセンターを設立し、社会起業家育成のための支援をスタート。以降日本初の社会起業のビジネスプランコンテスト「STYLE」、「社会起業塾イニシアティブ」等を手がける。04年からは、地域における人材育成支援のチャレンジ・コミュニティ・プロジェクトを開始。現在全国40地域に広がる。11年からは震災復興支援にも注力し、「右腕プログラム」では東北全域60プロジェクトリーダーに140名のスタッフを送り込み、コミュニティ再生、産業復興等の支援を行っている。2011年、世界経済フォーラム ヤング・グローバル・リーダーズに選出される。
講演要旨
今回のテーマ講義では、NPO法人ETIC.代表理事である、宮城治男先生にご講演いただいた。ETIC.は、次代を担う起業家型リーダーの輩出を通じて社会のイノベーションに貢献すべく、多岐にわたった活動をしている。大学1、2年生からのインターンシップの積極的なあっせん、起業家の創業支援事業、地域の産業支援への取り組み、地域社会を舞台に活躍する若者の育成などである。学生時代に起業志望者のために勉強会を立ち上げてから、現在「大学生のインターンといえばETIC.」と呼ばれるほどのNPOへの成長に至るまでの宮城先生の道のりと、新領域を開拓する多くの人々を手助けする中で得た教訓の集大成を話してくださった。
講演は学生の視点を踏まえた、学生にとって吸収するところの多い、大変密度の濃いものだった。「自分の人生を自分で切り拓く、自分で自分の人生を楽しむには」というテーマに沿って講演は進行していく。宮城先生は政治家・ジャーナリストになって社会の課題を解決する将来のイメージを抱きつつ早稲田大学に入学。地方から上京した宮城先生を待っていたのは、大学生活の現実だった。「高校までは学校に、環境にある種縛られていたところがあった。上京して大学生になれば何か得るものがあると思ったけれど、待っていても、望む答えは得られなかった」。自分のやるべきこと、将来は、「ただ大学にいるだけ」では見えてこないことに気付いたという。
このとき宮城先生の考え方に転機があった。「『依存』から、『自由』になった。大学への無意識の依存から抜け出して、自分の責任において、自由な大学生活の中、今の社会の課題を解決するには自分は何をしたらいいのか真剣に考え始めたんです。―(中略)―以降、一度だって後戻りはしていないですね」。
宮城先生はそれからほどなくして、数人の仲間とともに塾経営や先輩起業家のセミナーの企画・運営に携わる。「能動的になる」という決断がその後の人生すべてを加速させた。「能動的になる」とは、自分にとっての生きがいや幸せ、社会の問題点を自分が発見し、それに向かって仕事をすること、他人が選ばないけれど必ず実になりそうな選択肢を、自信をもって選ぶことに他ならない。今回の講演を通じて先生が最も学生に伝えたかったこと、最大のテーマはこの点「能動的になること」にある。
学生時代の活動、起業支援をするときに出会う多様な起業家志望者とのやりとり、学生の長期実践型インターンシップの推進、2011年東日本大震災にあってのETIC.の取り組みひとつひとつは、十分に満たされていなかった社会のニーズに確かに応えるものだった。人と人がつながっていく現場を、支援した起業家の9割がそのビジネスを継続・発展させている姿を目の当たりにするときに、ETIC.の職員はやりがい、幸せを見出すのだという。イノベーションを試みる起業家に深くかかわる仕事をするETIC.に限らず、主体的になることは現代の社会人が仕事に幸せを見いだすうえで大変重要な意味を持つ、と宮城先生は言う。大企業に就職しようとするときに、その選択を自分からする意識を持てるかどうかが、ひとつひとつの地味な業務や上司からの叱責を、前向きに受け取るかどうかを決める。心の持ちようで、人の幸福感が大きく変わってくる、と宮城先生はみている。
もはや現代の日本において、「幸福=お金持ちになること」と考える人は多くない。自分にとっての幸福を見いだし、最大限それを追求する。宮城先生が支援する起業という選択肢は、その延長としての手段の一つである。キャリア選択は個人、ひいては社会の幸福において主要な位置を占めるからだ。社会の課題を解決しようと主体的に行動する起業家たちをその創業から、その人の人生設計の段階からかかわり、サポートしていく今のETIC.の仕事に宮城先生は最高のやりがい、幸せを感じている。
本講義は、学生が人生を主体的に生きる、自分の人生を楽しむことへの誘いだったとぼくは考えている。目の前の相手の自己実現を、会社ゆえの利益のしがらみにとらわれず、ひとりひとりにあった形で最大限顕在化させようとするNPO法人ETIC.。その代表を務める方らしい講義であった。宮城先生自身の生きがいについての言葉で、この講義録を結ぶ。「毎日、奇跡が起こる。それを助けている。東北で。新領域で。いろんな人が協力してくれて、不可能と思ったことが可能になる。こんなシンクロが、どんどん早くなっている気がします。動き出した人の周りに、ロジックも人の心も、集まってくる。おかげで毎日を楽しんでいます」。
(担当:教養学部理科一類1年 築地豊治)
講義の様子
起業に限らず、自らアクションを起こすことことで、学問をすることの意味も見出すことができると話されました。
起業家に求められる素質として、人の役に立ちたいと思うこと、続けられること、そして楽しめること、の三つを挙げていました。