平川純子(5月30日)
Hirakawa, Junko
国際連合軍縮部大量破壊兵器担当 政務官
1996年 国際基督教大学卒業
1996年-1998年 東京大学大学院総合文化研究科国際関係論コース修士課程(学術修士)
1998-2002年 東京大学大学院総合文化研究科国際関係論コース博士課程(単位取得満期退学)
2000-2002年 タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士課程(Master of Arts in Law and Diplomacy)
この間、外務省や難民支援協会(日本)、国連の複数の部局でインターンや研究員を務める
2002年 国連競争試験合格(人権分野:この分野での日本人合格者第1号)
2003-2009年 国連薬物犯罪局条約部犯罪防止刑事司法官
2009年-現在 現職
紹介記事
College and Beyond – Study Abroad Interviews, 米国大使館
国連職員採用競争試験合格者体験談, 外務省ウェブサイト
講演要旨
~CAREER PATH~
タフツ大学留学中にルームメイトから国連採用競争試験があるという情報を聞き、チャレンジ。人権分野の試験に合格。国連薬物犯罪局条約部犯罪防止刑事司法官(@ウィーン)に就任。「人権」とは一見関係ないように見えるが、「本当の人権は刑務所で試される。」 仕事の主な内容は各国に対して小型武器に関する条約の批准を促進することだった。
その経験を活かし、小型武器以外の軍縮にも関わりたいと考え、現職、国際連合軍縮部大量破壊兵器担当政務官に就任。
これまで「現実逃避、他人任せ、行き当たりばったり」で進んできたように思う。こんな自分でも国連政務官として一人前になったのだから、あまり細かいことでくよくよ悩まず自信を持って人生を歩いてほしい。
~国連に対する誤解と解説~
国連公用語(英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ロシア語、中国語)のうち英語とフランス語は当然必要?
-必ずしもそうではない。6言語のうち最も必要なのは英語。複数の言語を中途半端に勉強するくらいなら、英語だけでいいから仕事で使えるレベルにまで高めておくことを勧める。
実務経験が必須 ?
-さまざまな採用基準があり、必ずしも実務経験が必要なわけではない。
日本人の女性は少ない?
-国連で働いている日本人職員111名のうち66名、つまり6割は女性。
国際機関の職員という身分は不安定である?
-労働契約の形態にはいくつかあるが、自分のような終身雇用ももちろんある。国際公務員が中立な立場で職務を遂行できるように、身分は保障されている。
どんな分野の勉強をすれば国連に入りやすい?
-PKO要員など人材が不足している部署はもちろんあるが、あなたは国連に入れれば何でもいいのかと逆に問いたい。国連に入るために何かをやるという発想は間違っている。自分がやりたいことを追求する中で、国連職員になることは一つの選択肢としてあるべきであり、それ自体が目的となってはいけない。
NGOは国連より下位?
-NGOと国連は対等なパートナーの関係である。むしろ国連職員より専門性の高い職員がいるNGOもある。NGOで経験を積んで国連に入るというキャリア構想は必ずしも適当ではない。
~英語について~
・世界で英語を話す人のうち75%は英語が母国語ではない。
・英語がどれだけ上手かではなく英語で何を言うかが肝心。
・外交官たちも専用テキストで発言・発表用英語を学ぶ。
・たとえ流暢であっても、表現力に欠ける’McDonald’s English’に憧れる必要はない。
・母国語の語彙が不足しているところにいくら外国語の語彙を増やそうとしてもムダ。
・「外国語の学習にはゴールがない。そこにあるのは課程のみ。だから挫折もない。」
・品格があり、かつ分かりやすい書き英語の能力が試される。
・これまで国連で様々な会議をオーガナイズする仕事をしてきたが、最も議場の人々の胸を打ったのは流れるような英語のスピーチではなく、長崎の被爆者を代表して山口さんという方が日本語で行ったスピーチだった。おそらく今後もこれ以上感動的なスピーチはないと思う。「ネイティブが話すような英語を身につける」ことにとらわれることなく、話す内容を充実させることのほうを学んでほしい。
~国連会議について~
・外交交渉においては一外交官の交渉能力が大きな影響力を持つことがある。
・さまざまな文化、歴史、制度的背景を持った192カ国が集まるので合意は容易ではなく、語句の定義さえも難しい。
・国連が採用した職員だけでなく、各国政府から出向してきている職員(外交官など)も国連でたくさん働いている。彼らは国連と各国政府をつなぐ重要な役割を担っているが、国連と自国政府という2つの雇用者の板挟みで苦慮することもある。
・国連はあくまで国同士の条約のもと成り立っているものであるため、政治的にならざるを得ない。
~質疑応答~
留学先としてタフツ大学を選んだ理由は?
-それまで学んできた国際関係の理論を実感したかった。外交を実務的な側面から学べる大学であった点、ハーバード大学やMITなど周辺の大学との単位交換制度があった点がとくに魅力的だった。
現実逃避、行き当たりばったり、他人任せの姿勢のどこから自信が?
-友人に恵まれ、自分にとってプラスになる情報の多くは友人からもたらされた。友人たちに引っ張られるようにしてここまで来たように思う。他人の意見を聞くことはとても大事。時には周りの人が自分よりも、自分のことをよく分かっていることもある。
国連で働く日本人職員に女性のほうの数が多いのはどうしてか?またそれは日本だけか?
-シニアクラスでは男性のほうが多いが、最近の傾向としては日本に限らず全体として女性のほうが多く国連に就職している。ジェンダーに配慮するため、能力や資質が同等であれば女性のほうが採用されやすいということはあるが、決定的な原因を述べられるだけの根拠を持ち合わせていない。
(担当: 文科一類1年 李東宣)
講義の様子
ご自身の生き方を「現実逃避・他人志向・行き当たりばったり」と評しながらも、自信に満ちた様子でこれまでの経歴を語る平川講師。日々変化する状況やキャリアパスの中でも確実に実績を残してきた平川講師の、豊富な経験と実力が伺われます。
「国際公務員になるためにはどうしたら良いでしょうか?」という質問をよく受けるそうで、世間でイメージされがちな国連像と現実のギャップ、組織や仕事内容、求められる資質の多様さについて説明してくださいました。
講義後のディスカッションまとめ
5月30日の、平川純子さんを迎えての授業後ディスカッションセッションでは、「日本政府代表になったとして福島原発事故について国際社会に何と発信するか」というテーマが示された後、平川さんが導入として「福島原発事故について個人的にどう思うか」という議題を提示して下さった。参加者の答えの要点を列挙すると、
・事故発生当時に東電が情報をすべて公開していたら、3月末のパニックはもっとひどいものになっていたと思う
・まだこれから分かってくる情報もあるだろうから、今はノーコメント
・直接的被害者以外は一歩引いた目線で、客観的に事故を見るべきだと思う
・原発の危険性に気づいていなかった。日本人でも自分の問題として捉えているかどうか疑問に思う
・実体験の有無で危機感に差が出ている、もっと誰もが関心を払うべきだ
・原発事故は日本社会の歪みが凝縮されて出た問題にすぎないのでは
・原発の脅威については突っ込むことさえ怖かったという面もあるのではないか
・人間のコントロールできない発電手段にここまで頼っていたことが怖い、今頼っているものの脆弱性についても知ろうと思う
という意見が出た。
それを踏まえて平川さんから、国際的視点からの原発についてのお話をいただいた。国連には「原子力の平和的利用の促進」と「原子力の武器利用の規制」という機関しかなく、二つが統合しているため原発事故に対応しづらいということ、フランスの迅速な対応とその思惑、更に南アフリカやアラブ諸国、アメリカの反応や思惑についても教えて頂いた。また、国連側が日本人の声が政府関係者を通してしか入って来ないという現状に悩んでいるという、意外な事実も分かった。
そこで、本題の「国際社会の場で何を言うか」という話題に移ると、次のような意見が出た。
・フランスに主導権を渡すのは危険だから、まず日本が先を見据えた提言をしなくてはいけない。多少棚上げと思われても、内政(事故への対応)と外交(海外へのアピール)を峻別するべきである
ここで、平川さんから「国益の視点も踏まえて」というアドバイスを頂き、更に意見が出た。
・原発の全廃は、技術輸出の観点から国益にならない。続行を明確にしつつ、批判防止のために対応を海外に向けて(外務省ホームページなどのツールで)アピールすべきである
・事故があった以上、日本の原子力技術はもう輸出できないと思う。潔く自然エネルギー発電の分野でリーダーシップをとる方が国益になる
・反原発は恐怖にあおられているだけの流れで、いずれ下火になるのではないか
・自然エネルギー発電への移行までは原発に頼るしかない
・原発の推進・廃止はなし崩しになってしまうのではないか。日常から離れると民間の意見も生まれにくいと思う
参加者からの意見が一通り出ると、平川さんが再び、今世界に発信する価値のある意見を伝えて行くことの大切さを強調されて、ディスカッションは終了した。
途中から今後の原発のことへと議論がずれてしまったきらいはあるが、参加者が原発事故について国際的な観点から考え、話すことは出来たと考える。個人的には、「(どれだけ危険であろうと)すぐに原発依存から切り替えることは難しい」「この問題も時間と共になし崩しになってしまうのではないか」という現実的な考えを前提として発言した参加者が多かったことが印象的だった。この事故を機に原発廃止へ、という意見がもっと出るかと思っていたので意外に感じた。おそらく、特に事故の影響や実害に不明な部分が多いことから実感不足で原発への危機感が薄れるのではないか、という予想が根底にあるのだと思う。しかし、だからこそ事故を風化させないために何をしたら良いか、国際社会の動きを読んで日本はどう対応するべきか、というもう一歩踏み込んだところまでは議論に至らなかったので、今後もぜひより広く深く意見を募りたいと考えた。
(担当: 文科三類1年 佐藤桃子)